消費者行政の推進について

平成9年11月28日
第30回消費者保護会議


 政府は、昭和43年に制定された消費者保護基本法の理念に沿って、消費者保護会議において消費者保護のための各種施策を決定し、その実施に努めてきたところである。同法制定以来30年の間に我が国の消費者行政は、組織体制の整備、安全・品質面における各種規制、悪質商法を防止するための法制度の整備等着実な歩みを続けてきている。
 しかしながら、現在、我が国経済社会の高齢化、グローバル化、情報化及びサービス化の進展等を背景に消費者を取り巻く環境は急速に多様化・複雑化しつつあり、サービス取引におけるトラブル、多重債務問題等の消費者トラブルは大幅に増加している。
 我が国経済社会の活力を維持・向上する観点から市場メカニズムを活用した規制緩和等を積極的に推進する一方で、こうした問題に対応するためには消費者と事業者が自己責任に基づいて行動できる環境整備が必要不可欠である。すなわち、消費者政策の重心を消費者の保護から消費者の自立に対する支援へと移行し、消費者と事業者の間の市場ルールの整備・活用によって、消費者トラブルの防止及び円滑な処理を図ることが重要となっている。
 こうした観点から、安全の分野においては、平成6年に製造物責任法(PL法)を制定し、その円滑な運営及び充実に努めてきたところであり、消費者取引の分野においても、市場ルールの整備・充実が検討課題となっている。また、このような自己責任に基づいた消費者と事業者の行動を促すため、消費者への情報提供や消費者教育を充実・強化しなければならない。あわせて、個別の消費者問題に対してはきめ細かい政策対応が求められている。
 政府としては、こうした認識に基づいて下記の項目を中心として、「消費者保護推進の具体的方策」(別添)のとおり消費者行政の推進を図り、消費者保護基本法制定30周年を期に消費者政策を一層強力に展開することとする。




I 当面の重点施策

(1) 消費者契約に関する包括的な民事ルールの法制化の検討
   経済社会が多様化・複雑化する中で、規制緩和の進展と同時に消費者と事業者の間の市場ルールの整備が重要である。このため、国民生活審議会において消費者契約の適正化のための包括的かつ具体的な民事ルールの立法化に関して、その内容及び論点について具体的な検討を行い、平成10年末を目途にとりまとめられる予定の報告を踏まえて適切な対応を検討する。
(2) 悪質商法への対応
   不正な利殖商法、強引な勧誘等悪質商法の多様化、巧妙化及び被害の潜在化に対応して、積極的な指導・取締りを行うとともに、関係法令の厳正な運用を行う。
(3) 多重債務問題への対応
 
[1]  多重債務者問題への対応を含めた適正な与信システムの確立の観点から、「個人信用情報保護・利用の在り方に関する懇談会」(大蔵省・通商産業省の共同の懇談会)において個人信用情報の利用と消費者のプライバシー保護の在り方について検討を行い、適切な対応を図る。
[2]  多重債務問題に関する消費者教育の充実を図る。
(4) 食品の安全性確保・適正な表示の推進
 
[1]  O157(腸管出血性大腸菌)による食中毒対策を含め、食中毒対策を推進するため、引き続き地方公共団体を通じて「大量調理施設衛生管理指針」(平成9年3月作成)に基づく食品衛生管理の徹底を図るとともに、HACCP(危害分析重要管理点)方式の考え方に基づく食品衛生管理の導入推進のためのモデル事業を実施する。
[2]  遺伝子組換え技術を応用して製造された食品等について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に基づき適切な審査を行う。また、遺伝子組換え農産物の表示の在り方、問題点等について関係者から意見を求め、適切な対応を図る。
(5) 電子商取引上の消費者トラブルの防止・救済の推進
 
[1]  電子商取引に関する消費者トラブル等の問題に適切に対応し、その健全な発展を図るため、内閣に設置されている「高度情報通信社会推進本部電子商取引等検討部会」等の場において、電子商取引におけるトラブルを防止・救済する観点からの環境整備を検討し、所要の対応を図る。
[2]  「消費者取引研究会」(通商産業省の懇談会)において、電子商取引における消費者保護のためのガイドラインや「訪問販売等に関する法律」等既存法令の運用の在り方等について検討を行い、適切な対応を検討する。
[3]  電子商取引の発展に伴い消費者に誤認を与えるような不当な広告や表示が増加することを回避するためには「不当景品類及び不当表示防止法」(景表法)の厳正な運用が必要であり、このため、その対象となる表示の種類等の見直しを行う。
(6) 消費者教育・消費者啓発の推進
 
[1]  消費者を取り巻く環境が多様化・複雑化する中で、消費者と事業者の間の市場ルールに基づいて主体的・合理的に対応できる能力を消費者に培うため、消費者教育の一層の充実を図る。
[2]  来年度は消費者保護基本法が昭和43年に制定されてから30周年に当たる。この機会に、30年間の消費者行政の歴史を振り返りつつ、消費者と事業者が自己責任を求められる新たな段階を迎えたことを踏まえて、消費者と事業者への啓発等のための各種事業を行う。
(7) 環境問題への対応
   環境基本計画に示された国民の役割を周知する一方で、環境への負荷の少ない製品に表示を付ける事業(環境ラベリング)に対して適切な指導・助言を行うとともに、環境保全型製品の積極的な購入(グリーン購入)等を推進し、また、国自らが消費者としての立場からグリーン調達等の実践を示すことにより、環境への配慮を組み込んだ消費行動の促進を図る。


II その他の主要な消費者政策

1. 消費者取引の適正化
   経済社会が多様化・複雑化する中で、独占禁止法等の厳正かつ的確な運用に基づく公正かつ自由な競争の確保を前提としつつ、消費者取引の適正化のための環境整備を図る。
 
[1]  代金引換郵便を悪用した一方的な送り付け商法の発生を未然に防ぐため、差出人に対して差出条件の厳格化等を図るとともに、効果的な周知活動により広く注意喚起を図るなどの対策を講ずる。
[2]  暴力団等に係る金融の被害から消費者を保護するため、暴力団員等による不当な態様による債権の取立てや高利債権の取立てを暴力団対策法等により取り締まる。
[3]  本格的な高齢社会の到来を控え、高齢者・知的障害者・精神障害者等の財産を保護すべき必要性が高まっている状況を踏まえ、高齢者・知的障害者・精神障害者等の行為能力制度や財産管理を内容とする、いわゆる成年後見制度の見直しについて、法制審議会において検討する。
[4]  近年の引越運送に係る消費者トラブルの多発にかんがみ、引越運送に係る消費者取引の適正化を図るため、標準的な見積書の作成など消費者保護対策の具体化策等の検討結果に基づき、所要の措置を講ずる。
[5]  近年の情報通信技術の進展等に対応して、電気通信事業、放送、発信者情報通知サービス、民間部門におけるコンピュータ処理における個人情報の保護を図るため、それぞれの個人情報保護に関するガイドラインに基づき事業者に対する指導等を行う。
[6]  近年の訪問販売、連鎖販売取引等による被害の多発に対応するため、関係機関との連携を図りつつ、「訪問販売等に関する法律」のより一層の周知徹底及び厳正な運用を図る。
   
2. 計量・規格・表示の適正化
   消費者が自主的かつ合理的な判断を行う上で必要な情報を的確に提供する観点から、計量・規格・表示の適正化を図る。
 
[1]  コーデックス規格(国際食品規格)等の国際規格と各国の規格・基準制度の整合化への要請を踏まえ、消費者・関係業界等への情報提供及び意見集約を行うことなどにより、我が国の実情を国際規格に反映し得るよう努め、基準・認証分野での国際化対応を充実・強化する。
[2]  JAS(日本農林規格)制度に関する申請・報告手続の簡素化・迅速化を図るシステムの構築等を行うとともに、HACCP(危害分析重要管理点)方式等を導入した高度品質管理システムのJAS認定工場への適用を行う。
[3]  消費者の適正な商品選択及び食品製造業者の適正な情報提供に資するため、加工食品の原産国表示や有機農産物等新たな表示の在り方を検討し、適切な対応を図る。
[4]  抗菌加工等新しい機能を備えた製品の増加に対応して、消費者への適切な情報提供の観点から、その品質・性能の表示に関して検討を行う。
   
3. 総合的な消費者被害防止・救済策の推進(製造物責任制度)
   製造物責任法が施行されて2年が経過したが、製造物責任制度の趣旨が実現され、より良いものとして定着していくように総合的な消費者被害防止・救済策の推進を図る。
 
 (製品事故の未然・再発防止対策の充実・強化)
[1]  製品の安全性や取扱い上の注意に関する情報を消費者に適切に提供するため、警告表示・取扱説明書の充実方策に関する業種横断的ガイドラインの周知徹底を図るとともに、これを踏まえた製品毎の警告表示・取扱説明書の適正化を推進する。
 (裁判外紛争処理体制の充実・強化)
[2]  裁判外紛争処理機関における紛争処理ルールの明確化及び処理結果の平準化を図るため、シンポジウムの開催を通じて都道府県等の苦情処理委員会と民間の製品分野別裁判外紛争処理機関(民間PLセンター)との連携強化を推進する。
 (原因究明体制の充実・強化)
[3]  製品評価技術センター、農林水産消費技術センター、交通安全公害研究所等国の機関や国民生活センターにおいて、被害者の証明負担を軽減するための原因究明、検査分析等の機能の拡充・強化を図る。また、都道府県等における原因究明機能の向上を図るため、消費生活センター等における商品テスト機器の整備を促進する。
 (事故情報の収集・提供等)
[4]  消費生活用製品等に係る事故に関する情報の収集・提供(事故情報収集制度・危害情報システム)の拡充・強化等を図る。
[5]  製品安全に係る消費者教育の充実を図るため、製品の基礎的な知識等について副教材としても利用できるような冊子の作成等を行う。
   
4. 食品、医薬品等各分野の安全対策の推進
   消費者に提供される製品及びサービスについて、その質、内容等に関する安全性を確保するため、品目の特性に応じた安全対策を推進する。
 
 (食品安全の確保)
[1]  食品の製造から食卓までの各段階におけるHACCP(危害分析重要管理点)方式の考え方を導入したガイドラインの策定、普及等による安全・品質管理対策の推進、食品事故等の危害・危険情報を迅速かつ的確に収集する体制の整備及びHACCP方式による総合衛生管理製造過程の承認の推進等を行う。
[2]  増大する輸入食品の安全性の確保を図るため、検査機器の整備等監視体制の一層の充実に努めるとともに、農産物中の残留農薬については、ポスト・ハーベスト(収穫後使用)農薬を含め、食品の安全性確保の観点から順次基準を策定するなど、適切な対応を図る。
[3]  食品添加物の安全性の一層の確保を図るため、従来の化学的合成品に加え、既存の天然添加物について、最新の科学的水準に基づき、安全性の見直しのための毒性試験等を行い、必要に応じて規格・基準の設定等の措置を講ずる。
 (医薬品安全の確保)
[4]  医薬品等安全性情報報告制度(全ての医療機関・薬局を対象に医薬品・医療用具の副作用・感染症・不具合情報を収集する制度)等により収集した情報を提供するため、公開情報の作成システム及びオンラインでの情報提供システムを開発する。
   
5. 消費者教育・情報提供等の推進
   消費者自らが必要な情報を選択し、正しく理解した上、適切に活用することができるよう、消費者教育、情報提供等の一層の推進を図る。
 
(1) 消費者教育の一層の推進
  [1]  小・中・高等学校の学習指導要領に基づき消費者教育が適切に行われるよう、各種講習会を開催する。また、消費生活センターが学校において消費者教育を実施するのを支援するため消費者教育の専門家を派遣する。
  [2]  社会教育における消費者教育を推進するため、市町村が社会教育施設を中心に行う事業等を支援する。また、企業における消費者教育の積極的な実施・定着を促進するため、新入社員に対する研修の場を活用すること等を要請する。
  [3]  行政・消費者・教育関係者・企業の四者による連携協力の下、消費者教育の総合的な体系の確立、教材・指導者マニュアル等の作成・配布、消費者教育に関する図書・教材等に関するデータベースの整備等を推進する。
  [4]  消費者教育の充実・推進を担う人材の資質の向上を図るため、国民生活センターにおいて、地方公共団体の職員や消費生活相談員等に対する啓発活動の一層の充実・強化を図る。
(2) 情報提供の積極的推進
  [1]  消費者保護基本法制定30周年という節目の年に消費者問題に関する啓発を一層推進するため、5月の「消費者月間」において「消費者問題国民会議」等全国各地で開催される各種事業を精力的に実施する。
  [2]  消費者被害の未然・再発防止を図るため、国民生活センターと都道府県等を結び、地方公共団体のネットワークの中核機能を持つPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の拡充を行うとともに、都道府県等とその域内の消費生活センターを結ぶ地域ネットワークの整備を促進する。
 また、消費者と都道府県等との双方向の情報交流を促進するため、従来からの情報提供資料の作成に加え、ニュー・メディアを活用した普及啓発に努める。
(3) その他
  [1]  我が国経済の急激なグローバル化に対応し、国際的な消費者トラブルに関する情報交換、国際的な消費者問題への政策的な対応を検討するため、OECD・CCP(消費者政策委員会)における政策協調へ積極的に参画するとともに、アジア・太平洋諸国との消費者政策の連携を図る。
  [2]  我が国経済社会の急速な変化に伴う新たなニーズに対応しつつ、環境と調和した持続的な消費活動を検討し、その実現に向けた消費者政策等を検討する。
  [3]  政策評価の重要性に鑑み、消費者政策の政策評価手法の開発と実施上の問題点等を総合的に検討する。




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