消費者行政の現状と当面の対策について

昭和44年10月7日


1. 消費者保護のための法律制度
  (1)  危害の防止
     商品及びサービスが消費者の生命、身体および財産に対して危害を及ぼすことのないようにすることは、消費者行政にとって基本的事項である。
 危害防止に関する法律制度には、食品衛生法、薬事法、電気用品取締法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律のほか、環境衛生関係法によるものがあるが、さらにガス用品についてその規制を行なうための法律改正を準備している。
   
ア.  食品衛生法
   飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止するため、食品、食品添加物、器具および容器包装について規制を行なっている。
 食品加工技術の向上を背景とする最近の食生活の変化に対処して、関係法令の整備、監視体制の強化をはかっているところである。
  [1]  法令の整備については、43年度においてズルチンの使用禁止、過酸化水素についての使用基準の設定等を行ない、また、44年7月には政省令等を改正し、営業に関する規制の強化、標示制度の充実、添加物の規制の強化等を行なった。今後、さらに、品質規格の設定、標示制度の整備および範囲の拡大等について検討をすすめる。
  [2]  監視体制の強化については、44年度において、監視指導、収去試験の効率化をはかるため都道府県における食品衛生パトロール車の整備をはかっている。
  [3]  とくに、食品添加物の安全性に関する試験研究機関を強化拡充することとしている。
イ.  薬事法
   薬・化粧品等の使用に伴う保健衛生上の弊害の防止等をはかるため、医薬品、医薬部外品、化粧品および医療器具について製造、販売等の規制を行なっている。
 とくに医薬品の毒性、副作用の問題に関して、製造、輸入承認段階での審査体制の整備、製造承認段階では予測できなかった副作用による事故をすみやかに発見し措置できる体制の確立等をはかって安全性の確保につとめているところである。
ウ.  電気用品取締法
   粗悪な電気用品による感電、火災などの危険を防止するため、電気用品の製造、販売等を規制している。
 43年に法改正を行ない、一般家庭で使用されるほとんどすべての電気用品を対象とするなどの規制の強化をはかっている。
エ.  液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律
   液化石油ガスによる事故から消費者を保護するため、液化石油ガスおよび器具等の製造、販売等を規制している。
 今後、検定を受けなければ販売してはならない器具の範囲を漸次拡大することとしている。
オ.  自動車の安全性の確保
   自動車の安全性の確保については道路運送車両法において保安基準、整備、検査等について規定しているところである。
 先般、欠陥車問題が大きな社会問題になったので、本年6月に業界に対する指導通達を行い、また9月には、型式指定規制を改正するなどかかる問題に対する対策を講じたところであるが、さらに新型式自動車の審査体制を整備することの検討、型式指定自動車の製作者等に対する監査の強化、自動車の安全化のための研究開発の推進、安全に関する工業規格の整備、品質管理の強化等、安全性の確保のための総合的対策を一層強化することとしている。
カ.  ガス用品の規制
   従来、規制が行なわれていなかったガス用品について、その保安に万全を期するため、ガス用品の製造、販売等を規制することとし、ガス事業法改正案を前通常国会に提出したところ審議未了になったが、再提出を準備している。
  (2)  計量の適正化
     消費者が事業者との間の取引に際して、計量について不利益をこうむることがないようにするためには、商品およびサービスについて適正な計量の実施を確保することが必要である。このための法律として計量法があり、計量単位、正確な計量器の供給、適正な計量の実施等について規定している。
 国、都道府県、特定市等においては、同法の施行を中心に計量器の検定、計量器の定期検査、商品量目の試買検査、計量の改善普及事業等を行なって、計量の適正化をはかっている。
  (3)  規格の適正化
     商品及びサービスについて、適正な規格を設定することし、その普及をはかることは、商品の品質の改善と消費生活の合理化に寄与するところが大きい。
 規格に関する法律としては、工業標準化法および農林物資規格法がある。
   
ア.  工業標準化法
   鉱工業品に関する適正かつ合理的な工業標準(日本工業規格)を制定し、その品質の改善、向上等を通じて消費生活の合理化をはかっており、一定品目について日本工業規格に該当することを示す表示(JISマーク)を付する制度を定めている。43年度には、産業基盤の強化と消費者保護の強化を軸とした「工業標準化推進5ヵ年計画」を策定し、この計画にそって、一般消費者が日常生活に用いる消費財や国民の安全衛生と深いつながりをもつ品目について、日本工業規格の制定改正を積極的にすすめている。
 また、日本工業標準調査会では、44年1月に「消費財の標準化の推進に関する建議」を行なったが、これを早急に工業標準化行政に反映させることとしている。
イ.  農林物資規格法
   農林物資に関する適正かつ合理的な規格(日本農林規格)を制定し、この規格による格付けを行なった農林物資には、日本農林規格に適合することを示す表示(JASマーク)を付する制度を定めている。とくに直接消費者に関連する加工食品について規格の制定・改善をはかるほか、市販品の買上テスト等監視体制の強化をはかっている。
 さらに、登録格付機関の登録要件等の整備、認定工場制の法制化等のため、本法改正案を前通常国会に提出したところ審議未了になったが、再提出を準備している。((4)のウ参照)
 また、我が国はFAOおよびWHOが合同で行なっている国際食品規格の作成作業に参画しており、その過程で規格の内容に我が国の立場を反映させるとともに、他方規格が制定された際の所要の国内的措置について検討を進めている。
  (4)  表示の適正化等
     消費者が商品及びサービスを購入、使用する際に、適正な判断ができるように商品およびサービスの品質、取引条件等に関する表示制度を整備し、あるいは不当な表示、不当な景品類の提供を規制することは、ますます重要になってきている。
 表示等に関する法律としては、不当景品類及び不当表示防止法、家庭用品品質表示法があり、また、食品衛生法、薬事法等にも表示に関する規定がおかれている。また、農林物資について表示の適正化をはかるため、農林物資規格法の改正を準備している。
   
ア.  不当景品類及び不当表示防止法
   商品およびサービスに関する不当な表示および不当な景品類の提供を規制しており、個々の違反、事件に対しては排除命令により、また、業界全般の問題については、公正競争規約の認定によって、それぞれの適正化を図っている。
 近年、不当表示規制の対象はとくに加工食品に重点がおかれておりまた不当景品については、44年3月に告示改正を行ない、実質的に商品購入を条件としている懸賞の提供を規制する等の措置を講じた。今後とも同法の運用により表示の適正化等を強力に推進することとしている。
イ.  家庭用品品質表示法
   家庭用品について表示の標準(表示事項及び遵守事項)を定め、品質・性能等に関する表示の適正化をはかっている。
 逐次指定品目の拡大、表示事項の改善をはかっていくこととしており、とくに、さきにJIS化した繊維製品の絵表示を本法に基づく表示事項とするために必要な対策をすすめている。
ウ.  農林物資規格法
   農林物資の表示の適正化をさらに推進するため必要な場合にJASマーク品以外についても表示の義務づけを行なうこと等を内容とする農林物資規格法改正案を前通常国会に提出したところ審議未了になったが、再提出を準備している。
  (5)  公正自由な競争の確保
     消費者の選択権を確保するため、事業者間における公正自由な競争を促進することは、消費者行政の重要な一部をなしている。このため、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律により、私的独占、不当な取引制限および不公正な取引方法について規制を行なっている。
 とくに、近時は違法な事業者間の価格協定の規制および再販売価格維持行為、不当な取引拒絶(ボイコット)等の不公正な取引方法の規制に重点をおいている。なお、再販指定品目については、再検討を行ない、43年12月に指定商品の範囲の明確化、有効に利用されていない品目の削除等のための告示改正を行なった。
  (6)  食品行政の再検討
     食生活の高度化と多様化、食品加工技術の向上等の事情を背景として、衛生的で良質な食品が公正自由な競争条件を通して消費者に提供されるよう確保することは、消費者行政の重大な課題となっているが、現在の食品行政がこの課題に十分応えているとは言いきれない実情にある。そこで、食品行政の現状を調査検討し、長期的視点から、いわゆる「食品法」制定の必要性も含め、食品行政のあるべき姿とその実現の方途について検討する。
  (7)  割賦販売の適正化
     割賦販売取引を構成にし、消費者を保護するため、割賦販売法がある。同法については、43年に改正を行ない、前払式割賦販売における消費者保護の強化をはかったところである。
  (8)  宅地建物取引の適正化
     宅地建物取引を公正にし、消費者を保護するため、宅地建物取引業法があり、宅地建物取引業者の免許制等の規制を行なっている。
 さらに、宅地建物の割賦販売については、本年7月住宅宅地審議会において、消費者保護の観点から割賦販売業の免許制度等を内容とする答申が行なわれたので、法案作成を急ぎ、できるだけ早い機会に国会に提出することとしている。
     
2. 消費者教育の推進
   経済の発展とともにさまざまの形で発生する消費者問題の解決のためには、行政面から消費者の権利を擁護し、消費者の立場を強化するのみならず消費者自身が消費者の権利を自覚し、自主的で合理的な消費生活を営むことが重要であり、このため消費者の啓発、教育が、消費者保護とならんで消費者行政の大きな柱となるものである。
 消費者教育については、社会教育及び学校教育における消費者教育の充実、消費者に対する情報提供の活発化、消費者教育内容の体系化などがはかられている。
 社会教育関係では、主として婦人学級、婦人講座、婦人団体における消費生活に関する学習活動は逐年拡充をみており、さらにその普及助長につとめている。
 学校教育関係では、従来からも社会科、家庭科などにおいて消費生活に関する教育が行なわれ降り、43年7月に告示された小学校学習指導要領および44年4月に告示された中学校学習指導要領においては、いっそう消費者教育の面が充実するよう配慮しているが、さらに現在改定作業がすすめられている高等学校の教育課程についても消費者教育の充実について十分検討することとしている。
 また、各省庁において、生鮮食料品の値動き、各種の商品知識、消費者保護行政の内容などの情報をパンフレット、展示会、映画、ラジオ、テレビ等の媒体を通じて消費者に提供しており、44年度にはさらに充実強化がはかられている。
 また、消費者教育の目的意識を明確にして、その内容の体系化をはかるため、「生活経営学」の研究討議をすすめてきたが、44年4月、その研究成果がまとまり、報告書として提出されており、今後、これを一層深化発展させることとしている。
     
3. 消費者意見の反映
   消費者行政を適切に企画し実施するためには、消費者の意見を行政に反映させるような体制を整備する必要がある。このような制度として、国民生活審議会、産業構造審議会消費経済部会等、消費生活関係の各種審議会、懇談会において消費者代表が意見を述べているほか、各省庁及び地方公共団体は各種のモニター制度を設けている。
 経済企画庁は都道府県の設置する消費生活モニターに対して補助し、消費者の意見を行政面に反映させる事業を行なっており、また、公正取引委員会(消費者モニター)、通商産業省(消費生活改善監視員、計量モニター)、農林省(食糧モニター)は、それぞれ所管の行政について消費者意向の反映をはかるためのモニターを設置している。44年には農林省は新たに食料品消費モニターを設置し、農林物資の規格および表示に関する監視の強化 ならびに行政に対する消費者意向の反映に役立たせることとなっている。
     
4. 消費生活センター
   最近における商品の多様化の進展とともに、商品選択に必要な知識の提供、消費者意識の高揚など、広い意味の消費者教育はますます重要となっている。そのため、苦情処理、商品テスト、研修会、情報提供等の機能を住民に身近なところで総合的に運営する必要があり、いくつかの地方公共団体ではすでにそうした組織を設置して実績をあげている。
 以上の観点から、経済企画庁では44年度において都道府県の行なう消費生活センター設置に対して補助を行ない、通産省ではすでに43年度から消費生活センターの商品テスト設備に対し補助を行なっており、44年度もさらに拡充した。また農林省も44年度においてテスト施設に対して補助を行なっており、今後とも関係省庁間で十分な連絡をとりつつ、地方公共団体における消費生活センターの設置に対して指導育成を行なうことを検討する。
 さらに今後は、地方における消費生活センターの機能と有機的な連けいを保ちつつ、国民の苦情、要望の体系的な収集、処理、国民生活に必要な情報の提供等を図ることとする。
     
5. 苦情処理体制の整備
   個々の商品及びサービスに関する消費者の苦情は本来両当事者間で解決すべきものであろうが、現状では、事業者団体、消費者団体の体制整備が立ち遅れており、国、地方公共団体が苦情処理を行なう必要性が大きい。通産省は40年度から消費生活改善苦情処理制度を発足させており、また民間の苦情処理体制の整備について、44年1月関係業界団体に対して通達した。また、農林省も業界における苦情処置体制整備のため、44年度から社団法人日本農林規格協会に助成して食品等に関する苦情処理の総括調整を行なわせることとしている。
 今後これら各種の苦情処理制度を一層充実するとともに、業界、消費者団体、国および地方公共団体が行なう苦情処理事務の分担、連絡解決方法の定型化等についてさらに検討をすすめることとしている。
     
6. 消費者団体の育成
   消費者の権利は自覚した消費者自身の団結の力によって、よりよく守られるものである。そのいみで、国、地方公共団体は自主的な消費者の組織活動を促進、援助する必要があり、現在、生活学校運営、日本消費者協会、消費生活協同組合等の行なう苦情相談、商品比較テスト、消費者教育等の事業に対して助成を行なっている。
     
7. 地方における消費者行政の拡充
   消費者行政を効果的に推進するためには、国と並んで地域住民と密着している地方公共団体の責任が大きい。
 その観点から、44年3月の地方自治法の改正により地方公共団体の事務として消費者行政を実施すべきことを明記するとともに、44年5月に自治省及び経済企画庁から都道府県知事あてに通達を出して、都道府県および市町村の消費者行政に関する事務処理のあり方を明らかにし、地方公共団体が積極的に消費者行政の推進をはかるべきことを要請したところであるが、今後ともひきつづき、その方針に沿って地方公共団体の消費者行政を推進することとしている。



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