消費者の窓

〔1〕我が国の消費者政策

2 消費者政策の理念

 消費者は、事業者に比べ情報力や交渉力において不利な立場にあることから、その格差を縮小するために、各般の消費者政策が講じられましたが、その際の消費者の位置付けや政策手法は時代とともに変化してきています。

1.「保護」から「自立支援」へ

 これまでの消費者政策は、事業者を業法等に基づき規制するという手法を中心に展開されてきました。そこでは、一般的には消費者は行政に「保護される者」として受動的に捉えられてきました。
 一方、近年、規制緩和が進展し、市場メカニズムの活用が進められています。市場メカニズムの活用は、消費者が市場において主体的に行動し、自由で多様な選択を行うことを可能とするものです。市場メカニズムを十分活用するためには、事業者間において自由で活発な競争が行われ、市場の公正性及び透明性が確保されるとともに、消費者は、「自立した主体」として市場に参画し、積極的に自らの利益を確保するよう行動する必要があります。同時に、行政は消費者が自立できるよう支援していくことが必要です。

2.政策手法の重点シフト

 従来の消費者政策の基本的な考え方は、相対的に強い立場の事業者の活動に一定の規制を加えるとともに、弱い立場の消費者に対して情報提供、消費者教育、苦情処理等による支援を行うことを通じて消費者利益の確保を図ろうとするものでありました。
 その基本的な考え方は変わるものではありませんが、1990年代に入り規制緩和が進展し、市場メカニズムの活用が進んでいることに加え、IT化や国際化の進展等により、新しい商品やサービスが登場し、消費者トラブルも多様化・複雑化していることから、従前のような事前規制を中心とする行政手法のみに依存することは困難となってきているのが現状です。
 このため、消費者政策は、事業者に対する規制を中心とした政策手法から、消費者と事業者が市場において自由で公正な取引を行うためのルール(市場ルール)を整備し、市場メカニズムを活用する政策手法に重点をシフトする必要があります。それに伴い、悪質事業者の監視・取締りや被害を受けた消費者を救済する制度の充実等の事後チェック機能を拡充させることが一層重要となります。
 一方、消費者の安全や健康の分野といった市場メカニズムの活用が必ずしも適切でない、あるいは、市場メカニズムを補正しつつ活用することが必要な領域は依然として存在しており、このような分野には引き続き行政が積極的に関与していく必要があります。また、消費者取引においても、事業者から消費者に対して適切かつ十分な情報提供や適正な勧誘等が行われるよう、監視・取締りを行うことが必要です。特に高齢者や若年層に対しては、その特性を踏まえてきめ細かく対応していくことが求められます。

3.「消費者の権利」

 消費者が安全で安心できる消費生活を送れるようにするためには、
 ・ 安全が確保されること
 ・ 適切な選択を行えること
 ・ 必要な情報を知ることができること
 ・ 消費者教育を受けられること
 ・ 意見が反映されること
 ・ 被害の救済が受けられること
等がまずもって重要であり、これらを「消費者の権利」として位置付け、消費者政策を推進する上での理念とする必要があります。
 「消費者の権利」という概念は、1962年に米国のケネディ大統領が、「消費者の利益の保護に関する連邦会議の特別教書」において、
 ・ 安全への権利
 ・ 情報を与えられる権利
 ・ 選択をする権利
 ・ 意見を聴かれる権利
の4つの権利を提示して以来、諸外国においても一般的なものとなっています。
 諸外国においては、欧州経済共同体の理事会で採択された「消費者の保護及び啓発のための第一次政策プログラム」(1975年)に規定されています。また、法令においては、韓国、中国、イタリアの消費者保護法等において消費者の権利が規定されています。
 「消費者の権利」は、消費者として確保されるべき基本的な事項を理念的・宣言的に示すものです。これにより直接に具体的な権利・義務関係が生ずる性格のものではありませんが、「消費者の権利」を明記することにより、行政、事業者、消費者のそれぞれが消費者の利益の擁護及び増進のためにとるべき行動の方向性が明確になり、個別法令の整備や施策の充実を促進する上での指針となるという意義があります。

1.ケネディ大統領の4つの権利(1962年)

(1) 「消費者の利益の保護に関する連邦議会への特別教書」において、以下の4項目を「消費者の権利」(Consumer Rights)として提示。

●安全への権利
●情報を与えられる権利
●選択をする権利
●意見を聴かれる権利

(2) 同教書では、
 ・ 「消費者の権利」の実現に支障ないようにすることは、連邦政府の責任
 ・ その責任を果たすため、立法並びに行政措置をとることが必要
  とされている。
(3) 上記に基づき、公正包装及びラベル表示法(1966年)、消費者信用保護法(1968年)、消費者製品安全法(1972年)等が制定された。

2.国際消費者機構(CI)の8つの権利と5つの責任(1982年)

(1) 消費者団体の国際的組織であるCI(Consumers International:国際消費者機構)が、次の8項目を「消費者の権利」として提唱。

●生活のニーズが保証される権利
●安全への権利
●情報を与えられる権利
●選択をする権利
●意見を聴かれる権利
●補償を受ける権利
●消費者教育を受ける権利
●健全な環境の中で働き生活する権利

(2) また、前述の「消費者の権利」とともに、次の5つを「消費者の責任」(Consumer Responsとして提唱

●批判的意識を持つ責任
●主張し行動する責任
●社会的弱者への配慮責任
●環境への配慮責任
●連帯する責任